寒空の下で回った動植物園は、叶海が想像していたよりも遥かに楽しかった。

 昔はなかった動物とのふれあいコーナーで餌やり体験を満喫して、人がまばらなバラ園を散策する。

「わあ、薔薇が満開だね」

「あそこで香水作りが体験できるってよ」

「え、やろうやろう。可愛いお姫様みたいな香りの香水、作ってあげるね!」

「お前、そんなのが俺に似合うと思ってんのか!?」

「色男はなんでも似合うんでしょ~?」

「馬鹿言うな。……お、イランイラン混ぜようぜ。催淫効果だってよ、やべえ」

「なにがやべえ(・・・)のよ……」

 蒼空と過ごす時間は、まったく気負わなくて済み、叶海は久しぶりにリラックスすることができた。しかし――。

「…………」

「香水くらいじゃ、神様はメロメロにならねえと思うぞ」

「うっ……蒼空はなんでもお見通しだなあ」

 どうしても、ふとした瞬間に雪嗣のことを思い出してしまう。

 叶海はしょんぼりと肩を落とすと、「ごめん」と蒼空に謝った。すると、蒼空は呆れながらも優しげに笑う。

「本当にお前は雪嗣が好きだな。昔から」

「……自分でもどうかと思う」

 叶海が力なく笑うと、蒼空はカラカラと豪快に笑った。

「ま、仕方ねえよ。初恋の相手ってもんは、思い出が綺麗なほど、自分の中ででかくなっていくもんだからな」

「……蒼空もそうなの?」

 叶海が訊ねると、蒼空は片眉を釣り上げて、少し遠くを見て笑った。

「まあな」