興味深そうに叶海を眺めた蒼空は、ニヤニヤ悪戯っぽく笑いながら言った。

「雪嗣と喧嘩して、不貞腐れて家に閉じこもってんのは誰だ?」

「うっ」

「未練タラタラで、毎日社の方をぼうっと眺めて過ごしてんのは誰だ? 正直、大人のすることじゃねえよな~」

「ううっ……! やめて、いじめないでよ!」

「嫌だね。早く仲直りしろよ、馬鹿野郎。こっちもやりづれえんだ」

 やれやれと肩を竦めた蒼空は、追撃をしようと叶海の顔を覗き込んだ。しかし、叶海の栗色の瞳が濡れているのに気が付いて、気まずそうに視線を逸らす。

「悪かった。まあ、なんだ。今日くらいはアイツのこと忘れたらいいんじゃねえか」

「……うん」

 叶海は涙を袖で拭うと、動植物園を眺めてポツリと言った。

「忘れられるかなあ……」

「意地でも忘れるんだよ。いつまでもクヨクヨしてんじゃねえ」

 蒼空は軽く叶海の背中を押すと、スタスタと中へと入っていった。

「待って!」

 蒼空は叶海よりも三十センチほど背が高い。そのせいか、歩く速さが段違いだ。

 叶海は必死に蒼空に追いつくと、モヤモヤしている気分を忘れようと、まっすぐ前を向いて歩き出した。

 するとまた蒼空に、ポン、と頭を叩かれた。

 叶海は一瞬だけ不満そうな顔をすると、消え入りそうな声で言った。

「……ありがと」

 その声は蒼空に届いたのか届かなかったのか。

 蒼空は叶海に歩く速さを合わせると、「オラ、行くぞ」と声をかけたのだった。