「ちょ、待って。想像してたよりも速いし寒いしー!」

 叶海の叫び声が、寒空の山中に響いている。

 ヘルメットにゴーグルを着けた蒼空は、バイクを走らせながら、背中にしがみついて半泣きになっている幼馴染みに声をかけた。

「騒ぐな、叫ぶな! 乗りてえって言ったの、お前だろ!?」

「それはそうなんだけど……! いやあー! カーブは無理! やめて!」

「曲がるなって、無茶ぶりすぎるだろうが!」

「それは、そうだけども! てか、そもそもカブじゃないの!? 想像してたよりも、バイクが遥かに大きくて、正直恐怖しかないんだけど!」

「二人乗りするんだったら、こっちのがいいだろ。わざわざ友だちから借りてきてやったんだ、文句言うな」

 蒼空が抗議の声を上げると、なにやら恐怖が限界を超えたらしい叶海は、蒼空の背中にしがみついたまま情けない声を上げた。

「怖い、死ぬ! うっ、逆に楽しくなってきた……」

「お前なあ……」

 呆れた様子の蒼空だったが、いつまでも騒ぎ続けている叶海に苦笑を漏らす。

 そして、ふと寒空を見上げると、ちらちらと雪が降り始めているのに気が付いた。

 雪が本格的に降り始めると厄介だ。蒼空は小さく眉を顰めると、アクセルをふかして叶海の悲鳴を誘った。