「叶海ちゃん、これ持っていってくれるべか」

「はあい!」

 和則の家で通夜振る舞いの準備をしていた叶海は、みつ江に言われて、できあがった料理を配膳していく。その時、ふと耳を澄ますと、遠くからお経が聞こえた。

 それは聞き慣れた蒼空の声だ。窓際に近寄って遠くを眺めると、川沿いをゆっくりと歩く葬列が見えた。

 この村の葬儀は、どこか独特な雰囲気がある。

 龍沖村では、死んだ魂は龍神が極楽へ連れて行ってくれると謂われている。

 誰かが死ぬと、棺に入れた遺体と共に村の中を一周する。

 彷徨っている魂を、雪嗣のもとへと送り届けるためだ。葬列が最終的に到着するのは、雪嗣の社へと続く石段の下。僧侶の役目はそこでお終いだ。村人の遺体は神である雪嗣へ引き継がれ、遺族は社で別の儀式へ臨む。

 それがこの村の葬儀。雪嗣のもとで儀式が終わると、遺体は焼かれ、遺骨は寺の墓地に埋葬される。他では絶対に見られないこの弔い方は、龍沖村が特殊な環境下にあることをまざまざと思い出せてくれた。

 叶海は葬列をじっと眺めると、おもむろに雪嗣の社がある方へと視線を向けた。

 すると、村を見下ろす高台に誰かが立っているのが見えた。あの場所は、かつて幼馴染み三人で流れ星を見た場所で、そこにいたのは雪嗣だった。