移ろいゆく世界は、まるでそこに留まるのが罪だと言わんばかりに、急激に世界を様変わりさせていく。山を秋色に彩っていた木々はすっかり葉を散らして、どことなく寒そうだ。家々の庭木に雪囲いが設えられ、乾いた風が里に吹き下りてくるようになると、いよいよ冬の足音が聞こえてくる。そんなある日のこと。

 人々が冬支度に忙しくしている最中、龍沖村に喧しいサイレンの音が響き渡った。

 救急車に担ぎ込まれたのは和則だ。急性心不全。元々この村で最高齢だった和則は、そのまま生きて村へ帰ってくることはなかった。

 数日後、チラチラと雪が舞い散る龍沖村で、しめやかに葬儀が行われた。

 小さな村での葬儀だ。通夜振る舞いや会場の準備も含めて、村人総出で行うのが慣例となっている。もちろん、一番若い叶海は人一倍働く羽目になった。
喪服ではなく、黒のシンプルな服の上からエプロンを着けて、はるばる龍沖村までやってきた和則の親族をもてなす。

 和則はかなりの高齢だったので、孫どころかまだ幼いひ孫たちも葬儀に加わった。子どもたちの声が村に響き渡り、普段は静かな村が一時賑やかになる。
和則の葬儀には大勢の人間が集まった。しかし、その誰もが龍沖村へ住むことを選ばなかったことを考えると、叶海はどうしようもなく哀しくなった。