「……梅子、早く帰ってきてくれ。俺はいつまで待てばいい」

 ここにいない想い人に呟いてみても、誰も答えてはくれない。

 雪嗣は膝を抱えると、顔を隠すように俯いた。

 秋風が窓をカタカタ小さく揺らしている。その音だけが響いていて、冷え切った家の中には、雪嗣以外の気配はひとつもない。

 ――ああ、もう叶海の笑い声を聴けないのか。美味い飯も、幼馴染み三人で過ごす時間も……なにもかも失ってしまった。

 そのことに思い至ると、雪嗣はあまりの寂しさに僅かに身体を震わせる。その瞬間、もう二度と聞こえないはずの声が聞こえた気がした。

『雪嗣、お嫁さんにして!』

 雪嗣は叶海にぶたれた頬にそっと手を添えると、ぼそりと呟いた。

「……痛い……」