あの日、叶海が浮かべた表情が、真珠のような涙が零れる様が……目に焼き付いて離れない。雪嗣の頭の中では、先日の叶海の言葉がグルグルと回っていた。

『本当に酷い神様だね。私のことなんて好きじゃない癖に』

 その言葉を思い出す度、違う! と叫び出したい衝動に駆られる。

 ……だが、どうして否定したいのか自分でもよくわからない。

 雪嗣は、自分に起きた変化を理解できず、受け入れられないでいた。

 誰かに相談しようにも、ここ最近、蒼空の足は雪嗣のもとから遠のいている。

 蒼空も、叶海の事情を知って、なにか思うところがあるのかも知れない。
だから、それが世間一般で言う「恋慕」という情なのだと、神である雪嗣は知る術がなかったのだ。

 ――奇跡が起きて生まれ変わりが証明できたなら。すべてが丸く収まるのに。

 だが、奇跡なぞ簡単に起きる訳もない。

 いや、奇跡というものは、神が起こすものだ。

 神自身が焦がれるなぞ、矛盾にもほどがある。