「さらっと言ったな!?」

 そういうことは、慎みと少しばかりの照れと共に告げるべきとでも言いたげな雪嗣に、叶海はふふんと不敵な笑みを浮かべ――更にずいと近づく。

 すると叶海の勢いに圧倒された雪嗣は、咄嗟に一歩下がった。しかし、地面に大量の桜の花びらが降り積もっていたせいで、足を滑らせてしまった。

「わっ……」

「きゃっ……」

 雪嗣が背中から倒れ込むと、その腕を掴んだままだった叶海も釣られて体勢を崩した。倒れた衝撃で、ふわりと桜色の欠片が舞い上がり、はらはらとふたりに降り注ぐ。

 雪嗣に覆い被さるような恰好になった叶海は、まるで押し倒したみたいだとぼんやりと思った。そして、透き通るほどに白い肌を薔薇色に染め、羞恥心に駆られているらしい雪嗣に気が付くと、ほうと熱い吐息を漏らす。

「……なにこれ可愛い。お嫁さんにしてもいいくらい」

「いっ……! ななな、なにを……! 女が言うことじゃないだろう!」

「今は男女平等の時代なのよ。神様」

 益々顔を真っ赤にして怒りだした雪嗣に、叶海はクスクスと楽しげに笑う。

「昔に戻ったみたい。あの頃も、よく突拍子のないことをして雪嗣に怒られてた」

「自覚があるならどいてくれないか……」

「嫌です」

 疲れたような雪嗣の言葉に、叶海はどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「びっくりした? まあ、いきなりお嫁さんにしてくれだもんね」

「驚かない方がどうかしてる」

「ごめんごめん。だって私、アラサーだし、お付き合いするなら結婚前提がいいかなって。でも、神様と結婚ってどうするのかな。うーん。雪嗣、生け贄……いる?」

「生け贄を、野菜を売るみたいに言わないでくれ……!」

 そして深く嘆息した雪嗣は、酷く困惑した様子で言った。

「勘弁してくれ……。急に、どうしてこんなことを言い出したんだ」