だから、未練たらしく村にしばらく居座ることにしたのだ。

 雪嗣に会いに来るつもりはない。けれど、彼を感じられる距離にはいたい。
叶海は、自然とそう結論づけた自分に呆れながらも、やはり自分は「呪い」から逃げられないのだと確信していた。

「達者で暮らせよ」

 雪嗣は叶海に向かってそう言うと、ゆっくりと奥の部屋へと消えて行った。

 すたん、と襖が閉じる音がすると、途端に叶海は小さく息を吐く。

 そして自身の胸に手を当てると、襖の向こうの雪嗣へ囁くように言った。

「雪嗣。……好きだよ」

 今日も今日とて、叶海の心の中心には、キラキラ輝く宝箱が据えられている。

 その中身は言うまでもない。甘く切なく、そして青春を煮詰めたような初恋。

 けれど――その想いを受け止めてくれる人はどこにもいない。

 あんなことがあったというのに、叶海は雪嗣への想いを捨てられずにいる。でも、それでいい。それならば死ぬまで共に生きるだけだと、叶海はそう考えていた。

「ばっかみたい……」

 叶海は小さく自嘲すると、沈んだ表情のまま雪嗣の家を後にした。

 ひゅう、と冷たい風が叶海の頬を撫でる。

 耳に届くのは、落ち葉たちの囁き声。それはまるで、恋に破れた叶海を嘲笑っているかのようで、叶海は荷物を抱えると急ぎ足でその場を後にした。