「ねえ雪嗣、ただの幼馴染みに戻ろう」

 冬が近づき、秋色に彩られていた龍沖村がすっかり色褪せてしまった頃。

 荷物を纏めた叶海は、恋い焦がれていた相手にそう告げた。

 それは、ほんの一息で終わる言葉だ。けれど、ひとこと発するほどに叶海の心は引き裂かれるほどに痛み、身体は震え、涙が零れそうになった。

 しかし、これもまた仕方のないことだ。

 もしかしたら、本当に叶海は梅子の生まれ変わりかも知れない。

 けれども叶海は叶海であって、前世の人物と同じにはなれないのだ。

 どう足掻いても、雪嗣の嫁になれないのなら――。

 初恋が実らないのなら、彼の傍にはいられない。

 それが、悩みに悩んだ挙げ句に叶海が出した結論だった。

「……そうか」

 叶海の言葉に、雪嗣は少しだけ寂しそうな顔をした。

「これからどこで暮らすんだ?」

「とりあえずはお婆ちゃんの家。この村でも仕事は出来るしね。その後のことは……追々考えようと思う」

 叶海は嘘を吐いた。

 実際はなにも考えられなかったのだ。いや、考えたくなかった。
 本来ならば龍沖村から出て行くべきなのだろうが、それをしたら雪嗣には二度と会えない気がしていた。なにせ龍沖村の過疎化は、今この時も着々と進んでいる。

 ――村が消えたら、雪嗣を信じる人が誰も居なくなれば、彼も消えてしまう。

 その事実は、叶海の考える力を更に鈍くしていた。