そう言うと、雪嗣はゆっくりと首を横に振った。
「俺と叶海の出会いはもっと前。あれは叶海が生まれて三ヶ月の頃だ」
世間一般では、生まれたばかりの子が三ヶ月になった時に「お宮参り」をするという風習がある。その土地の氏神にわが子が生まれたことを報告する、という趣旨の儀式なのだが、龍沖村では龍神である雪嗣へ赤子を見せるのだ。
「そうなんだ。知らなかった」
「赤子の頃の話だし覚えているはずはないがな。肝心なのはここからだ。俺は必ず、顔見せに来た赤ん坊の『魂』を視ることにしている。それで先天性の病を知れたりするからだ。もちろん、お前の『魂』も視た」
「……それで?」
なにか変なものでも視えたのかと叶海が不安に思っていると、雪嗣はどこか切なそうに顔を歪めた。
「とても驚いた。お前の魂は、俺の知る人のものにとてもよく似ていたから」
――ズキリ、叶海の胸が痛む。なんだか嫌な予感がして、叶海は不安げに雪嗣を見つめた。すると、雪嗣は一呼吸置くと、意を決したかのように口を開いた。
「叶海、お前の『魂』は死んだ梅子にとても良く似ている」
「――……!」
それを聞いた瞬間、叶海は息を呑んだ。
同時に、胸を中心にモヤモヤとしたものが広がっていく。それは、途方もないほどの不快感を伴っていて、それは見る間に叶海の全身を駆け回り、すべてを侵した。
叶海は頭が真っ白になりかけながらも、必死に冷静であるように努める。
けれど、雪嗣は淡々と言葉を紡いでいく。
「お前は梅子の生まれ変わりかも知れない」
「……そ、そうなんだ」
叶海は震えている自分を抱きしめると、言葉を紡ごうと口を開いた。
しかし、カラカラに乾ききった口内では上手く喋ることができずに、なんとか唾で口内を湿らせる。そして、体内に渦巻いているモヤモヤした気持ち悪いものを吐き出すように、やっとのことで口を動かした。
「雪嗣は……私が、その人の生まれ変わりかも知れないから一緒にいるの……?」
――どうか。どうか、違って欲しい。
叶海が悲痛な願いを込めて口にした言葉は、残念なことに正解だったらしい。
雪嗣は眉を顰めると、そっと目を逸らした。
「しかし、生まれ変わりかどうかは確信を持てていない。判別する方法がないんだ。だが、お前は梅子と同じことを言ったんだ。ただの偶然にしては、おかしいと思わないか? 梅子も、ことあるごとに俺の嫁になりたいと口にしていた。前向きな性格も、よく笑うところも同じだ――……」
そこまで話すと、雪嗣はがっくりと項垂れてしまった。
「悪い。確かめる術もないのに。俺は……」
「俺と叶海の出会いはもっと前。あれは叶海が生まれて三ヶ月の頃だ」
世間一般では、生まれたばかりの子が三ヶ月になった時に「お宮参り」をするという風習がある。その土地の氏神にわが子が生まれたことを報告する、という趣旨の儀式なのだが、龍沖村では龍神である雪嗣へ赤子を見せるのだ。
「そうなんだ。知らなかった」
「赤子の頃の話だし覚えているはずはないがな。肝心なのはここからだ。俺は必ず、顔見せに来た赤ん坊の『魂』を視ることにしている。それで先天性の病を知れたりするからだ。もちろん、お前の『魂』も視た」
「……それで?」
なにか変なものでも視えたのかと叶海が不安に思っていると、雪嗣はどこか切なそうに顔を歪めた。
「とても驚いた。お前の魂は、俺の知る人のものにとてもよく似ていたから」
――ズキリ、叶海の胸が痛む。なんだか嫌な予感がして、叶海は不安げに雪嗣を見つめた。すると、雪嗣は一呼吸置くと、意を決したかのように口を開いた。
「叶海、お前の『魂』は死んだ梅子にとても良く似ている」
「――……!」
それを聞いた瞬間、叶海は息を呑んだ。
同時に、胸を中心にモヤモヤとしたものが広がっていく。それは、途方もないほどの不快感を伴っていて、それは見る間に叶海の全身を駆け回り、すべてを侵した。
叶海は頭が真っ白になりかけながらも、必死に冷静であるように努める。
けれど、雪嗣は淡々と言葉を紡いでいく。
「お前は梅子の生まれ変わりかも知れない」
「……そ、そうなんだ」
叶海は震えている自分を抱きしめると、言葉を紡ごうと口を開いた。
しかし、カラカラに乾ききった口内では上手く喋ることができずに、なんとか唾で口内を湿らせる。そして、体内に渦巻いているモヤモヤした気持ち悪いものを吐き出すように、やっとのことで口を動かした。
「雪嗣は……私が、その人の生まれ変わりかも知れないから一緒にいるの……?」
――どうか。どうか、違って欲しい。
叶海が悲痛な願いを込めて口にした言葉は、残念なことに正解だったらしい。
雪嗣は眉を顰めると、そっと目を逸らした。
「しかし、生まれ変わりかどうかは確信を持てていない。判別する方法がないんだ。だが、お前は梅子と同じことを言ったんだ。ただの偶然にしては、おかしいと思わないか? 梅子も、ことあるごとに俺の嫁になりたいと口にしていた。前向きな性格も、よく笑うところも同じだ――……」
そこまで話すと、雪嗣はがっくりと項垂れてしまった。
「悪い。確かめる術もないのに。俺は……」