「――は?」

 その瞬間、雪嗣はあんぐりと口を開いた。

 ややあって、叶海の言葉をようやく理解したらしい雪嗣は、呆れたように言った。

「……な、なにを言ってるんだ。俺は神でお前は人だ。そんなことできるはずがない」

 それは、叶海が望んでいたはずの言葉だった。

 初恋を忘れ、新たな一歩を踏み出すための、呪いを解く魔法の言葉。

 しかし――叶海にとって、それはすでに価値のないものだ(・・・・・・・・)

 叶海は雪嗣の腕を掴んだまま、どこか熱に浮かれたような口ぶりで言った。

「そんなのどうでもいいの」

「いや、どうでもよくな……」

「神とか人間とか関係ないでしょ!? 要は気持ち次第だわ!」

「いやいやいや!? そんなわけないだろう……!」

 突拍子もないことを言い出した叶海に、雪嗣の顔が盛大に引き攣る。
しかし、叶海は構わず話を進めた。

「私、よく言われるの。思い込んだら一直線だって」

 だからこそ一度心奪われた相手に、アラサーになるまで惹かれ続けていた。
 自分の中で、その人が基準になってしまうほどに心を預けてしまったのだ。

「信じられない。どうして大人になった雪嗣に会って、初恋を捨てられると思ったのかな。再会しただけで、こんなに惹かれちゃったのに!」

「はっ? 初恋……?」

「うん。私の初恋の相手、雪嗣なの」