それは今よりもずっと人々が信心深く、そしてずっと世界が狭かった時代。
まだ東京が江戸と呼ばれていた時代のことだ。
その時代、雪嗣はすでに龍沖村で神として人々を守る役目を担っていた。
文化も治水も医療もなにもかもが未熟な時代だ。人々に安寧を与えるためには、現在よりも雪嗣が骨を折らねばならないことが多かった。特に龍沖村の中央を流れる川を押さえ込むのは、如何に神といえども容易なことではなかったのだ。
――神は万能であるはずだ。
龍沖村で過ごす時の中で、雪嗣は何度もそう思った。しかし、人々を守るという点に於いては、たとえ龍神であろうとも無力なことも多かった。人は脆い。飢えれば死に、病が流行れば死ぬ。子を産んでも死ぬ。年老いても死ぬ。如何に雪嗣が心を砕こうとも、誰も彼もがすぐにいなくなってしまう。
そのことに、雪嗣の心は何度も折れかけた。
『でも……俺はこの村を守ると決めたんだ』
幾人もの村人たちを見送り、自身の力不足を嘆きながらも、雪嗣は必死に歯を食いしばりながら、懸命に神としての役目を果たそうと足掻いていた。
まだ東京が江戸と呼ばれていた時代のことだ。
その時代、雪嗣はすでに龍沖村で神として人々を守る役目を担っていた。
文化も治水も医療もなにもかもが未熟な時代だ。人々に安寧を与えるためには、現在よりも雪嗣が骨を折らねばならないことが多かった。特に龍沖村の中央を流れる川を押さえ込むのは、如何に神といえども容易なことではなかったのだ。
――神は万能であるはずだ。
龍沖村で過ごす時の中で、雪嗣は何度もそう思った。しかし、人々を守るという点に於いては、たとえ龍神であろうとも無力なことも多かった。人は脆い。飢えれば死に、病が流行れば死ぬ。子を産んでも死ぬ。年老いても死ぬ。如何に雪嗣が心を砕こうとも、誰も彼もがすぐにいなくなってしまう。
そのことに、雪嗣の心は何度も折れかけた。
『でも……俺はこの村を守ると決めたんだ』
幾人もの村人たちを見送り、自身の力不足を嘆きながらも、雪嗣は必死に歯を食いしばりながら、懸命に神としての役目を果たそうと足掻いていた。

