「……!」

 しかし、想い人が困り顔になっているのを見つけて、泣きたくなってしまった。

「ごめん。迷惑だよね」

「…………」

「アハハ、上手く行かないなあ。現実はお伽噺じゃないもんね。無理矢理押しかけたって、お嫁さんになんてなれないよね……」

 叶海は袖で涙を拭うと、自分の胸を手で摩った。

「自分でも思う時があるよ。どうして、私ってばどうしてこんなに雪嗣のことが好きなんだろうって。他の誰かじゃ駄目だって、只々そんな気がしてる。もう、よくわからないや。でもなんだろう……うん、これだけは間違いないと思う」

 叶海が自分の中に意識を向けると、そこには大きな感情が渦巻いているのがわかる。それはもちろん、雪嗣への気持ちだ。元々、叶海はその感情に区切りをつけるために龍沖村へやってきた。なのに今はもう、それを捨てるなんてことはできそうにない。

 だから、叶海は確信を持って、言一言を噛みしめるように言った。

「――たとえ死んだって、この気持ちは変わらない。生まれ変わっても、私はきっと雪嗣を好きになるんだろうな」

 ――その瞬間。

「なんでそれをお前が言うんだ」

 顔を歪めた雪嗣は、切羽詰まった様子で叶海の身体をかき抱いた。