雪嗣は叶海の涙を指で拭うと、おもむろに叶海に訊ねた。

「お前はどうしてそんなに俺のことが好きなんだ。俺は……神とはいえ、こんな小さな村を守ることしかできないような男だぞ」

 叶海は瞼をそっと伏せると、くすりと笑った。そして、胸の内に秘めた宝箱をゆっくりと開け放った。

「雪嗣は私の宝物なの」

「……宝物?」

「雪嗣にした初めての恋は、いつだって私の胸の中にあって、両親の離婚で荒れた私の心を支えてくれた。すごいんだよ、すごく落ち込むことがあっても、哀しくて不安な夜だって、この村で雪嗣と過ごした時間を思い出すと、元気になれるんだ」

 この村で過ごした時間は、それほどまでに叶海を支えていた。

 叶海の人生は、決して順風満帆なものではなかった。片親になったことで、偏見の目にさらされることもあったし、二親の家庭に比べると、思い通りに進路を選べない苦しみもあった。けれど、いつだって叶海は前を向いて生きてきた。腐ることも、道を逸れることもなく、只々まっすぐを向いて。それができたのは、叶海を支えるものがあったからだ。

「この気持ちがすごく独りよがりだってわかってる。でも、私は初恋に守られて今日ここまできたの。だから、私の初恋は宝物。この気持ちを持っている限り、多分、私はずっとずっと雪嗣のことが好きなまま」

 一通り話し終わった後、叶海は恐る恐る雪嗣の顔を見上げる。