「……それは……」

 同じ今を生きる若者として、叶海は耳が痛かった。盆や暮れに帰省してくる子や孫たちは、きっとこの場所を大切なものだとは思ってくれているのだろう。しかし、実際の生活の場として考えると、田舎はなにもかもが不便すぎるのだ。現代的な生活を送りたいと思うのならハードルが高すぎる。

 ――でも、それで雪嗣が死ぬだなんて。そんなのおかしい!

 叶海は奥歯を噛みしめると、雪嗣をまっすぐに見つめた。

「なら、なおさらのこと私をお嫁さんにして。私はこの村で一番若いもの。誰よりも長く雪嗣の傍にいられる。そうしたら……」

「――駄目だ」

 すると、雪嗣は叶海の言葉を遮った。

 そして真剣な顔で叶海をじっと見つめると、重ねて言った。

「駄目なんだ」

 ――ああ、まただ。

 叶海は内心でため息を零した。

 雪嗣の瞳が揺れている。叶海に向けられている榛色の瞳は、叶海を見ているようで見ていない。その先にいる――誰か(・・)を見ている。

 叶海は強く唇を噛みしめると、次に小さく息を吐いた。そして、おもむろに手を伸ばすと、ひんやりとした雪嗣の頬に触れた。

「また、そんな顔するんだ」

 すると雪嗣が息を呑んだのがわかった。

 叶海はくすりと笑うと、涙で濡れた瞳で雪嗣をまっすぐに見据えたまま話し出す。

「今日ね、嬉しかったんだ。雪嗣が綺麗って言ってくれたこと。天にも昇る気持ちだった。私を、ちょっとだけでも意識してくれたのかなって思ったんだ……」

 黙ったままの雪嗣に、叶海は胸が痛むのを感じながら続ける。

「神様と人間。結ばれるのは、多分すごく難しい。そんなのは私もわかってる。でもね、私あんまり物事を深く考えるタイプじゃないから、気持ちでなんとかなると思ったんだけど。でも……ああ、今日も駄目だったねえ」

 ぽろり、一粒の涙が叶海の瞳から零れる。すると、まるで栓が壊れたかのように、次から次へと涙が零れ落ち始めて止まらなくなってしまった。