雪嗣は遠くを見ると、指先で髪を結んでいる赤い布を弄びながら続ける。

 赤い布には、同じ赤色の糸で紅梅が刺繍されてあった。雪嗣の指は、糸の感触を楽しむかのように、梅の部分を執拗に撫でている。

「神には永遠の命がある。誰もがそう思っているが、それは正しくもあり、誤りでもある。大勢の信者を獲得した神は、その信仰が続く限り永遠に生き続ける。しかし、そうではない神は路傍の石と変わらない。忘れられてしまったらおしまいだ」

 雪嗣は、自分のことであるはずなのに、まるで人ごとのように淡々と語った。

 万能だと思っていた神様が、綺麗な顔に諦めの色を浮かべている。そのことに、叶海は堪らなく不安になった。

「ね、ねえ! 雪嗣がそうならないためには、どうすればいいの」

 きっとなにか手があるはずだ。切なる願いを込めて問いかける。しかし、雪嗣は小さく首を横に振った。

「この村が続く限りは、俺は消えないだろうが……。それはきっと無理だ。今日の祭りでも、みんな言ってただろう? 田舎には若者の仕事はないし、娯楽もない。人間は新しいものを生み出しもするが、古いものは捨てる生き物でもある」

 雪嗣の言葉に、叶海は堪らなく哀しくなった。

 確かに、今日の祭りの間、村人たちは一様に不安を口にしていた。

 先祖代々伝わる田畑を継いでくれる人がいない。自分が死んだ後は、家屋敷を処分するしかないが、買い手がつくとは思えない……。そんな話題がチラホラと漏れ聞こえていた。村人たちにも子や孫はいる。けれど、彼らは都会に自分たちの家を持っていて、誰も好きこのんでこんな田舎へは戻ってこないだろう、とも。

「人にとって、この村も、この俺も――すでに捨てられつつあるものなんだ」