「……人は、世界は、移ろいゆくもの。変わらないのは神様だけ……」

 叶海はぽつりとそう呟くと、勢いよく顔を上げた。そして、バタバタと忙しなく自室へ移動すると、机の上からスケッチブックを持ち出す。

 そして改めて縁側に座ると、鉛筆で絵を描き始めた。

 すい、と鉛筆を紙の上で走らせる。

 叶海の脳裏に浮かんでいるのは、先ほどまで目の前で繰り広げられていた祭りの光景だ。誰もが笑顔で、美味しいご飯があって、人々の中心には雪嗣の姿がある。それは移ろいゆく世界の中で、この瞬間にだけ表れた、かけがえのないもの。そして、叶海が残すべきだと思う光景だ。

「……うん」

 叶海はじっと紙面を見つめると、夜通しの祭りの後であることなんてすっかり忘れ、夢中になって手を動かし始めた。

 やがて――ある程度まで書き込みが進むと、叶海はふうと息を吐いた。

「すごいな」

 するとその瞬間、すぐ隣から声が聞こえて、飛び上がりそうになってしまった。

「わっ……! あ、雪嗣」

「ああ、すまない。驚かせてしまったか」

 叶海の真横に雪嗣が座っている。どうやら絵に夢中になりすぎて、雪嗣が傍に来たことすら気が付かなかったようだ。すると、いつもの白い衣装に着替えたらしい雪嗣は、興味深そうに叶海の手もとを覗き込んで言った。

「まるで魔法のようだった。なにも見ずにどうして描けるんだ?」

「あ、いや。こう……たくさん描いてきたから、としか……」

「それで、こんな正確に人の姿を写しとれるものなのか。只々すごいな」

「ありがとう……」

 雪嗣が目を輝かせて自分の絵を見ている。それは擽ったいような、恥ずかしいような――。少しだけ居心地悪さを感じた叶海は、なんとなくスケッチブックを降ろした。