ぼんやり朝の空気に浸っていると、玄関先で雪嗣と和則が話しているのが聞こえてきた。

「ありがとう。和則のおかげで、今年も無事に祭りを終えることができた」

「いやいや、そんなことねえべ。オラは別になにも……」

「謙遜しなくていい。俺は、氏子の中で和則を一番頼りにしているんだ」

 すると一瞬だけ間があって、和則が盛大に笑った。

「いやあ、そんなに褒められると照れるべ。こりゃ、病気なんてしてらんねえなあ」

「和則は生まれた時から頑丈なのが取り柄だったろ?」

「ワハハ! 確かに、餓鬼の頃は風邪ひとつ引かなかったなあ。悪戯ばっかりして、龍神様に何度怒られたことか」

「だろう? なあ、和則。病院には通っているのか」

「ちゃんと定期的に検査もして、薬も飲んでるべ。こないだみたいな長期入院はしばらくなさそうだな。……ああ、龍神様を心配させちまっただ。もったいねえ。オラは大丈夫です。大丈夫ですだ」

「そうか。なにかあったら言ってくれ」

「もちろんです」

 するとそこで会話が途切れた。玄関の方向へ目を遣ると、曲がった腰を庇うように、ゆっくりとした足取りで去って行く和則の後ろ姿が見える。なんとなくその背中が小さく見えて、叶海は思わず顔を顰めた。

 ――この村に未来はあるのだろうか。

 ふとそんなことを思いついて、胸が苦しくなる。

 龍沖村は着実に過疎化が進んでいる。叶海が住んでいた頃は、もっと大勢の人がこの村で生活していた。たった十年ほど前の話なのに、今はその半数もいない。