「うん……? 叶海?」

 久方ぶりに会う幼馴染みの突然の異変に、雪嗣は小さく首を傾げた。
 名を呼んでみても、叶海はぴくりとも反応しない。
 嗣はわずかに眉を顰めると、躊躇いがちに叶海へ手を伸ばす。

「――……雪嗣」

 しかし、その指先は叶海に触れることはなかった。
 何故ならば、叶海がその腕を掴んだからだ。

「ど、どうしたんだ?」

 腕を握る叶海の力が徐々に強まって行く。ギリギリと腕を締めつけられ、雪嗣はまるで人のように狼狽している。

「叶海……?」

 そして困り果てた雪嗣が、弱りきった声で叶海の名前を再び呼んだ瞬間。

「…………っ!」

 叶海は勢いよく顔を上げると、ずいと雪嗣にその顔を寄せた。
 その瞳は、先ほどまでの驚きと困惑に彩られていたものとはまるで違った。

 濡れた瞳は春の日差しに輝く水面のように煌めき、ほんのりと色づいた頬は桜の花びらのよう。生き生きとした表情で、熱の籠もった眼差しを雪嗣に注いだ叶海は、躊躇することなくはっきりと言った。

「雪嗣! 私をお嫁さんにして!」