「ね、今ならこのまま披露宴できそうじゃない? お嫁さんにしちゃう~?」

「……本当にお前は。するか、馬鹿者」

 雪嗣は力ない声でそう言うと、そのままそっぽを向いてしまった。

「ああ、フラれちゃった!」

 叶海はいつものようにそう言うと、まるで雲の上を歩いているようなふわふわした足取りで、雪嗣の隣に座った。

「……ニマニマするんじゃない」

「へへ。無理……」

 喜びのあまり、今にも溶けてしまいそうなほどの頬を手で押さえると、叶海はクスクスと小さく笑った。

 ――ああ。嬉しいなあ。嬉しいなあ……!

 いつもと違う自分を褒められたこと。たったそれだけのことなのに、まるで天にも昇る気分だ。叶海は雪嗣の横顔をそっと覗き見ると――しかしその瞬間、表情を堅くした。

 みんなが賑やかに笑っている中、雪嗣は心ここに在らずといった様子で、どこか遠くを見ている。その横顔がどうにも寂しそうに見えて、叶海の胸がちくりと痛んだ。

「……雪嗣?」

 途端に不安になった叶海は、小声で雪嗣の名を呼ぶ。しかし、まるで凪いだ湖面のような表情の雪嗣が、叶海の呼び声に応えることはなかった。

 ――すぐ傍にいるのに、なんだか雪嗣が遠くにいるみたいだ。

 先ほどまで喜色に彩られていた心が、一気に色褪せていく。

叶海は苦しげに眉を顰めると、じっと雪嗣の横顔を見つめ続けた。