儀礼用の黒い衣装を身に纏った雪嗣は、普段よりも凜として見える。毎日一緒に過ごしている叶海から見ても、惚れ惚れするような恰好良さだ。ぼうっと叶海を見つめてはいるものの、顔色も悪くないし、朝食もしっかり食べていたはずだ。

 ――健康に問題はなさそうだけどなあ。神様だし、風邪を引くとは思えないし。

 必死に考えを巡らせるも、なかなか答えが出てこない。

 ――もしや寝不足なのだろうか……?

 叶海がひとり悶々としていると、それまで状況を静観していた蒼空が動いた。

「なにやってんだ、お前ら」

 雪嗣と叶海を交互に眺めた蒼空は、ひとつため息を零した後、呆れ気味に言った。

「雪嗣、綺麗だと思ったならそう言えよ。見蕩れて言葉もねえってか?」
「はっ……!?」

 その時、素っ頓狂な声を上げたのは、なにも雪嗣だけではない。

 同時に大きな声を上げた叶海は、白粉の下からでもわかるほどに顔を真っ赤に染めると、信じられないという顔で雪嗣を見つめた。

 当の雪嗣は、大汗をかきながら慌てふためいている。

「おっ……おっ……!? おま、なにを言ってるんだ、なにを!」

 ソワソワと落ち着かない様子でしきりに視線を宙に泳がせている姿は、どう見たって図星を突かれたようにしか見えない。叶海はこくりと生唾を呑み込むと、雪嗣に詰め寄った。

「ゆ、雪嗣……!」

 そして、茹で蛸のように真っ赤になっている想い人を凝視すると、雪嗣の両肩を鷲掴みにして言った。