「おお! 『贄さん』の準備整っただか!」

「こりゃ別嬪だ」

「本当に叶海だべか? いやあ、化けるもんだなあ!」

「馬子にも衣装って、このことだべ!」

「ワハハハハハ!」

 どうやら、主会場の居間へ駆け込む恰好になってしまったらしい。叶海の姿を見た人々は、ワッと上機嫌で手を叩くと、口々にその姿を褒めそやした。既に祭りの準備を終えていたようで、村人が一堂に集っている。

「あ、あははは……。お待たせしました」

 叶海はヘラッと愛想笑いを浮かべると、次の瞬間には般若のような顔になった。

 ジロリと、周囲にいた村人たちを睨めつける。

「……で、誰が馬子にも衣装だって?」

 すると、一部の男性陣が途端に居心地悪そうにすると、一斉に顔を背けた。

「……はあ」

 叶海はひとつ息を吐くと、雪嗣を捜して顔を巡らせる。そして、蒼空と共に上座に座っている雪嗣の姿を見つけると、キュッと唇を噛んだ。

 ――よ、ようし……。

 いつもよりかは随分と大人しめに、しずしずと歩き出す。

 すると、叶海の気持ちを知っている村人たちは、皆一様に口を噤んでその様子を見守り始めた。途端に居間が静まりかえり、叶海の緊張感が増していく。

 叶海は雪嗣の真ん前に到着すると、ちらりと雪嗣の横にいる蒼空に視線を向けた。

「おお。なかなかいいじゃねえか」

 ヘラヘラ笑って手を振るもうひとりの幼馴染みに、少しだけ勇気を貰った叶海は、俯き加減のまま、普段の彼女からは想像つかないほどに弱々しい声で言った。

「雪嗣。ど、どう……かな」

「…………」

 叶海の問いかけに、雪嗣は黙ったままだ。

 ――うう。しっかりしろ、私。

 必死に己を鼓舞するも、しかし不安な気持ちは増えていくばかりだ。

 好きな人からの評価が待ち遠しくて、けれどもそれを聞くのが怖い。緊張のあまりに目眩を感じながらも、叶海はひたすら雪嗣の言葉を待った。

 しかし――。

「…………?」

 待てど暮らせど返事はない。

 不思議に思った叶海は、そっと雪嗣の様子を窺う。

 すると、雪嗣の瞳とばっちりと視線が合った。榛色の、場合によっては黄金色にも見える瞳だ。叶海が度々見蕩れていたその瞳が揺れている。

 ――もしかして、具合でも悪いのかな?

 雪嗣の白い肌がほんのり染まっているのを見つけた叶海は、思わずまじまじと雪嗣の様子を確認した。