「ねえ。未婚の女子が婚姻衣装を着ると、行き遅れるって言わない……?」

 正直、アラサーな叶海にとっては由々しき事態である。

 すると後片付けをしていた幸恵が、にんまりと怪しい笑みを浮かべる。

 思わず叶海がギョッとしていると、幸恵は口もとを隠しながらこう言った。

「心配すんな。この村では、『贄さん』に選ばれた娘っこは、幸せな結婚をするって言われててなあ」

「……え、本当?」

「んだ! だから、年頃の娘が多かった時代は、お役目の争奪戦になったもんだ。龍神様のお嫁さんになりたいんだべ? 『贄さん』はやっといて損はねえ」

「…………!」

 その瞬間、叶海のやる気ゲージが満タンになった。

 この村に来て約半年。あっという間に春から秋になってしまった。雪嗣は相も変わらず頑なに叶海の求婚を拒み続けている。このままじゃ埒が明かない。叶海としては、なにかきっかけが欲しかったところなのだ。

「お婆ちゃん! 私……立派にお役目を務めてみせる!」

「おう。頑張れや~」