うっすらと白粉を塗られて、真っ赤な紅を差された顔は、普段と違って大人びて見える。ぽってりと差された深紅の紅。それは、叶海が想像していたものよりも自然に肌に馴染み、まるで熟れた果実のように艶めいている。

 叶海は姿見に顔を近づけると、繁々と眺めてから言った。

「……おお。確かに色っぽい、かも?」

「普段はこれっぽっちも色気ねえからな!」

「お婆ちゃん!」

 叶海が頬を膨らませると、幸恵は呵々と笑った。いつまで経っても子ども扱いが抜けない幸恵を不満に思いながらも、叶海は自分の恰好を見下ろす。

「……それにしても、『贄さん』かあ……」

『贄さん』について想いを馳せていた叶海は、選ばれた人間が、最も村で美しい女性であるという事実を思い出した途端、にんまりと笑った。

「美人……ふふ。美人って」

 すると、後片付けをしていた幸恵がさもおかしそうに言った。

「なにを馬鹿なこと言ってるだ。今、この村にいる未婚の娘は叶海しかいないべ?」

「うっ。わかってるし。ちょっと浸りたかっただけだし」

 叶海は一瞬顔を引き攣らせると、色打ち掛けを繁々と眺め、そして不安そうに眉を顰めた。何故ならば、ある噂を思い出したからだ。