「もう、紛らわしいんだから！　予め言ってくれたらあんなに騒がなかったのに！」

　奥の部屋に移動した後、叶海が抗議の声を上げると、幸恵はため息を零した。

「当たり前だべ……。誰が進んで自分の孫の命を捧げるもんか！　ああ、うちの孫はどうしてこうも思い込みが強いのか」

「それが私のいいところでもあり、悪いところでもあるんじゃないかな！」

「口だけは達者だべなあ」

　苦笑を浮かべつつ、幸恵はテキパキと準備を進めていく。

　叶海は自分の間抜けさ加減に呆れつつも、姿見に映る自分に目を向けた。

　そこには、普段とはまるで違う自分の姿があった。

　深紅の下地に、牡丹や菊、それに桜が刺繍された豪華絢爛な色打ち掛け。実際に神前式で使われたのだというそれは、紛れもなく花嫁衣装だ。しかし、その下に纏っているのは何故か白装束で、死者に纏わせるのと同じシンプルな装束が、色打ち掛けの鮮やかさを際立たせている。

　それが『贄さま』の衣装だ。

　龍沖村の収穫祭。この祭りは、時代に合わせて何度も形を変えてきた。

　それは純粋に収穫を祝うだけの祭りであったり、戦中には水杯を交わすだけの質素な時代もあったりしたのだという。

　そして――現代。収穫祭は、生贄を捧ぐ祭りとして今に伝わっている。