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「思い更けちゃってどうしたのー?」
とある商店街の片隅にある古本屋。
埃っぽい本が棚に並ぶ店内の奥に、畳の部屋がある。簡易式の台所で泥のような茶を淹れようとしている変人の男が、窓の外を眺める私に問う。
昔のことを思い出していたことを答えると、変人の男は丸眼鏡の奥でにっこりと笑う。
「あの時はボクも驚いたよ。まさか、街中で妖怪と出会うなんて思わなかったからね」
あの日、私が目を閉じたあと、少年は妖力が切れて狐の姿に戻った私を抱えたまま何度も呼びかけていたところを、変人の男が助けてくれたのだという。
男の住む商店街はぬらりひょんの領地で、結界に守られているらしい。そこに住めば妖力を戻せるかもしれない、という無謀な提案に、少年は賭けることにした。この古本屋の一角を借りて、私は一ヵ月ほど眠り続けた。
結果的に妖力の半分ほど回復した私は目を覚まし、ずっと付き添ってくれていた少年にしばらくの間、ただただ力強く抱きしめられていた。普段では見られない、泣きじゃくっている彼をみて、私は身を任せた。
「ぬらりひょんの妖力が、君たちの愛に応えたんだろうね」
「思い更けちゃってどうしたのー?」
とある商店街の片隅にある古本屋。
埃っぽい本が棚に並ぶ店内の奥に、畳の部屋がある。簡易式の台所で泥のような茶を淹れようとしている変人の男が、窓の外を眺める私に問う。
昔のことを思い出していたことを答えると、変人の男は丸眼鏡の奥でにっこりと笑う。
「あの時はボクも驚いたよ。まさか、街中で妖怪と出会うなんて思わなかったからね」
あの日、私が目を閉じたあと、少年は妖力が切れて狐の姿に戻った私を抱えたまま何度も呼びかけていたところを、変人の男が助けてくれたのだという。
男の住む商店街はぬらりひょんの領地で、結界に守られているらしい。そこに住めば妖力を戻せるかもしれない、という無謀な提案に、少年は賭けることにした。この古本屋の一角を借りて、私は一ヵ月ほど眠り続けた。
結果的に妖力の半分ほど回復した私は目を覚まし、ずっと付き添ってくれていた少年にしばらくの間、ただただ力強く抱きしめられていた。普段では見られない、泣きじゃくっている彼をみて、私は身を任せた。
「ぬらりひょんの妖力が、君たちの愛に応えたんだろうね」