私は子供の有無を問う前に、大勢の人間の前で子供に取り憑いた。
 思っていた以上に身体の怪我が酷く、動くので精一杯だった。私が取り憑いたことに気付いた妖狐の子供は、安心した顔をしていた。
 傷だらけの体で立ち上がり、指を鳴らして鬼火を出す。人間が怯むその姿を見て、思わず笑みがこぼれた。

『見ていただろう? 私はこの子供の身体を乗っ取った。何度お前たちがこの子供を虐げようとすれば、それより先に私がお前たちを呪ってやろう』
『今後、妖怪と関わることを止め、この子供と普段通りに接すると誓えるのであれば、このことは大目に見てやらなくもない』

 そう言いながら鬼火を近づけて脅すと、人間たちは悲鳴を上げて助けてくれと懇願した。なんとも悲しい姿だった。
 人間たちが戻っていくと、私は子供から離れて本来の姿に戻った。子供がしっかり抱しめていたからか、妖狐の子に怪我はなかった。

「助けてくれてありがとう」

 子供はそう言って笑った。
 しかし、既に妖力が弱まっていた私には、この子供が大人になる時まで傍にいられないことを充分理解していた。人に虐げられ、畏れられた私が最後に人の成長を見守りたいだなんておこがましいにも程がある。
 私を生み出したあの村人たちは、今もなお、私の存在を恨んでいるのかもしれない。