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 人間の子供と出会ったその日から、子供は怪我をしたまま私を連れて山を下りた。
 山の出入り口には紺色の帽子と洋服を纏った人間が何人もいて、何かを探していた。私は子供の言う通りに子犬の姿に化けると、子供は私を抱えて人間たちの前に出た。
「子犬を探していて迷子になりました」と半泣きの顔で人間たちに言う子供は、大きな荷車のようなものに乗せられ、山を下りた。
 子供は子犬の姿の私を抱えたまま、人間たちになぜあの山に行ったのか、家族はどうした、などといろいろ聞かれていた。それについて淡々と答えていく子供は、悲しいことに答え慣れていた。
 
 その後、人間たちから解放された子供と私は、「君のお母さんの親戚だよ」と優しく笑う家族のもとへ引き取られることになった。当時、子供は六歳で、小学校というものに入ったばかりだった。
 私はその後、しばらく子犬として子供の傍に居座ることになる。学校へ行く子供を見送っている間は家族の誰かと共に行動し、帰ってくるのを待っていた。