夜は少し冷たくなっていた。
 ヒグラシが夏の終わりを歌い、残暑がそれに応えて風を呼ぶ。
 ちょうど物語の終わりが、次の物語を生むみたいに。
 あるいは、この遠光台で起こった事件のように。
 一時だけ騒ぎ立てて、後はなかったことにされてしまう。
 きっと、忘れん坊の泥棒が盗んだと言われるものの大半は、都合のいい民意とやらの生んだ偶像だ。

「結構なことじゃないか。観測しないものは存在しないんだ、その度に「夏」と言う新しい季節を知るのも、また綺麗なもんだろう?」

 子供の帰る夕暮れ刻。
 駄菓子屋ノーベルの軒先に座って、ヒグラシに耳を傾けながら、ザハロフさんはタバコを弄ぶ。

「へえ、ザハロフさんもそんな前向きなこと言うんですね」

 五円玉のチョコを三角パックの牛乳で流して、ザハロフさんに向き直った。
 訪れた矢先に「外に出よう」だなんて言うから、ザハロフさんは少しおかしくなっていたのかもしれない。

「何だって、私はピエロだぜ? 泣き言も吐くし、観客を沸かすジョークだって飛ばして見せるさ。泥棒じゃなくてもね」

 切れ長の眦に、栗色の瞳が滑ってくる。
 武器商人バジル・ザハロフは、忘れん坊の泥棒を捨てた。
 今はかつて自分が盗んだ盗品たちを管理するために、jude kissを切り盛りしている。
 泥棒を継いだ僕が盗品窟を管理すると言ったのだけれど、ザハロフさんは頷かなかった。
 『これは私の盗んだものだ、自分のケツくらいは自分で拭くさ』らしい。

「尊敬しますよ、僕にはそんな生き方出来っこない」
「それでいいのさ。わざわざ自分を殺す方法なんて、覚えなくていいよ」

 優しくて、哀しげな微笑み。
 この人はいつもそうだった。それは同時に、またいつも通りの静かな日常が帰ってきたと言う事。気持ちに余裕が出てきたと言う事だ。

「それよりあの犯人、「殺意」は否定してるってさ」
「ええ、でしょうね。一度天月を刺しておいて、よく言えた話です」
「君がそれを言うのかい?」
「ええ、べつに問題はないでしょう?」

 天月を襲った犯人は呆気なく捕まった。
 クラスの人気者だった人物の犯行だったから、旧クラスのSNSグループは随分と騒がしい。
 被害者も、目撃者も、犯人も。
 この一連の物語の登場人物が、全てかつての二年一組出身者で固められていたからだ。
 それだけじゃない。この遠光台で起こった三つの事件は、もともと全て一つ。
 遠光台にやってきた強盗も、加賀美宮で一人の少女を殺した殺人鬼も。そして天月を刺したストーカーも。
 なかったことになった殺人も含めて、その犯人が、かつて天月に告白した同級生だったからだ。

「今頃クラスグループ、犯人を責め立てるメッセージで通知が鳴り止まないだろうね」
「はい、だからミュートにしてます」
「やるよねぇ、やるやる」

 楽しそうに笑いの後、「しっかし」と置く。
 ピースを吸う。
 道化の吐いた煙は、苦かった。

「無かったことになったとは言え、詩乃ちゃんをいじめてた女子たちも、滑稽だねぇ」

 吐き出す煙で夕陽を掴んで、道化は意地悪く嗤って見せた。
 彼女の言う通り、グループでは天月をいじめていた女子たちが、躍起になって天月の事件を悲しんでいた。
 僕としては吐き気しか覚えない、不愉快なものだ。

「とかく人間とは、自分を棚に上げて他人を批判したがる。そうすることで他人を自分に見立てて、『自分の悪いところは理解してる』なんて言い訳を免罪符にする」

 全く、バッチィねぇ。
 否定の余地はなかった。
 心のどこか一点で、そうかもしれない、と思う心があったから。
 やっぱり道化は、言葉が上手い。

「詩乃ちゃんのご両親には、もう挨拶に行ったのかい?」
「……まだです」
「早く行ってやりなよ。詩乃ちゃんだって、きっと会いたがってるぜ」

 本当に、言葉が上手い。
 天月の名前を出されれば、僕が動かざるを得ないことを、ザハロフさんは知っている。
 天月の家には、あの事件以来行っていない。
 恋が怖いとかじゃなくて、本当になんとなく、何かが確かに怖かったから。
 彼女がまだ元気だった頃の痕跡を、僕は辿れないでいる。
 
「じゃあ、行ってきますよ」
「おや、今すぐにかい? せっかちだねぇ」
「決心が鈍りますから。天月のご両親とは知り合いでしたよね、伝言はありますか?」

 天月詩乃の両親は、まだ泥棒の力がザハロフさんにあった時代、家族にいじめられていた少女を引き取った。
 それから定期的に連絡を取り合っているらしい。

「ないよ、ピエロは言葉を持たないんだ。でも、ありがとう」

 どこかしおらしいザハロフさんを置いて、陽炎の待つアスファルトに立ち上がった。

「ザハロフさん」
「なんだい?」

 立ち止まる。すぐに返事は返ってくる。

「僕は、忘れん坊の泥棒ですか?」
「ああ、君は私より質が悪いな」

 意外な答えだった。
 自分を殺して笑い続ける、哀れな道化の自己犠牲より質が悪いものはそう多くない。

「私は、人の心は奪えなかったから、さ」
「言ってて恥ずかしくなりません? それ」
「ん~……」

 長い髪が、溜め息と一緒にしなだれた。
 瞳を覆った手のひら。細い指の隙間から覗く頬は、少しだけ桃色をしていた。

「まあ、ちょっと、ね……」

 少しだけ笑って歩き出した。
 なんだか、少しだけ得をした気分だった。
 僕とザハロフさんの関係は、僕と友崎の関係性に似ている。それは「友達」と置き換えてもいい。
 友達の新しい一面を知る時は、新しい誰かと知り合う時に似ている。
 どうしようもない緊張の中に、それを楽しむ自分もいて、気分は天月の家に着くまで揺れていた。

『ええもちろんよ、是非来てあげて』

 道すがら、まだ自分の家に帰れる交差点。
 天月の家に連絡を入れたら、少し悲しげな小春さんが出た。
 もしかしたら、誰もいないかもしれない。そんな帰るための言い訳も、全ては虚構の産物で。
 ただ空しくなった感情を振り払って、僕は走った。
 遠光台の駅を追い抜いて、国道沿いのマクドもゲームショップも金物屋も置き去りにして、残暑の中を走り続けた。
 そうでもしないと、天月に会わせる顔がない。

 到着した天月の家は、いつもと変わらなかった。
 きっと時間も物も、命の価値に気付けないのだと思った。

「いらっしゃい、待ってたわ」

 インターホンの後に現れたのは小春さんだった。
 僕を見て、少し悲しげに眦を下げる。

「お久しぶりです。今日は少しお話ししたいことがあってお邪魔しました」
「ええ待ってたわ、上がってちょうだい。でも、あの子は……」
「大丈夫です、お邪魔します」

 招き入れてくれた玄関に、天月の靴はなかった。
 間の抜けた「いらっしゃい」も聞こえなかった。
 内装にも何にも、変わりはないのに。天月のいない家は、何かが抜け落ちているような気がした。

「待ってたよ、二条くん」
「お久しぶりです、修治さん」

 リビングには修治さんが待っていた。
 その隣に小春さんが座る。

「それで、話とはなんだい?」
「はい、『忘れん坊の泥棒』についてです」

 それから僕は、あの日裏で何が起こっていたのかを説明した。
 ストーカーが殺意を否定しているのは、忘れん坊の泥棒が直前に殺意を盗んでいたから。
 駄菓子屋の裏、jude kissにはその殺意が売られていて、いつかそれを買う者がいるかもしれないこと。
 そして、僕が一つだけ変わった、大事なこと。

「そうか。ザハロフさんから聞いていたが、君が次の……」
「シャイロックさん、ようやく解放されたのね」

 感慨深く嘆息した二人に頷きを返して、僕は小さく息を吸った。
 吐き出す言葉に、意味を持たせたかったからだ。

「僕が、忘れん坊の泥棒です」

 僕は正式に、忘れん坊の泥棒になった。
 これまでザハロフさんがそうしたように、人々の拒絶を代弁し、盗み、なかったことにする。

「けれど僕は、ザハロフさんのように上手く目は逸らせないし、口も達者じゃありません」

 その道は決して平坦じゃない。
 拒絶には悲しみが付き纏うものだから、きっと僕の人生は、これからも悲しいままだろう。
 ただ、今は「それでもいい」と思った。
 そうやって何かに寄り添うことができるのは、独りじゃないことの証明だから。

「だから僕は、きっと何も盗みたくないんだと思います」

 盗む度に、怖くなった。
 この広い世界から、一つの記憶が抹消されるんだ。
 それは忘れると言うよりは、存在の焼失に似ていて、どうしようもなく他人の過去を奪うことになる。
 僕は、他人の過去を背負うのが怖かった。

「僕は武器商人にも、高利貸しにもなりたくないんですよ。その、なんと言うか、ザハロフさんとは何か違うものになりたいと言うか」

 勢い任せに吐いた言葉は、途中で足を止めた。
 違う。僕が言いたいのは、抽象じゃない。具象なんだ。
 唇を噛む。考えれば考えるほど、ど壺にはまった。

「二条くん」

 頭上から、声が聞こえた。
 いつしか僕は、頭を下げていたらしい。

「理想と言うものは、理屈じゃない。《好き》か《嫌い》かなんだよ。君は君が嫌うものから、全力で逃げなさい。その先で君の好きなものを見付けられるのが、きっと幸せと言うことなんだ」

 見上げた修治さんは大きかった。
 威圧感とか、そう言うものじゃない。ただ人間として、年を重ねた分の大きさだった。
 それは尊敬と置き換えてもいいのかもしれない。

「配られたカードをよく見るんだ。そして一度、自分がしたことのないことをしなさい。
 それが勝負と言うものだ」

 僕は何になりたいのだろうか?
 将来の夢なんて小学生の時になくしているから、よくわからなかった。
 それでも、なりたくないものは、よくわかった。

「「拒絶を盗む泥棒」には、なりたくないです」

 答えのない命題の中で、漠然と繰り返した「拒絶を盗む」と言うこと。
 それはきっと、自分で自分の時間を拒絶することと代わらない。
 例えば、喧嘩別れしたかつての友達。
 過ごした時間は間違いなく楽しくて、自分の思い出を作ってくれるもののはずなのに。
 けれどそれを否定することは、その時間すらも否定すると言うこと。
 思い出したくない記憶を抜き去って、後に残るのは「空白」だけ。
 そんな悲しみは、誰も望まないし、誰も成長しない。

「よし、なら君は、そうならない方を選ぶといい」
「あら、何でもそんな簡単にはいかないものよ?」
 
 苦笑しながら、小春さんが釘を刺した。修治さんにも、僕にも。
 もちろんわかっている。
 でも平坦な道を歩いて見つかるものなんて、そう価値のないものだ。たまには未舗装な、石ころだらけの道を歩きたい。
 その道には綺麗な石があるはずだから、それを拾って、自分の中で価値をつける。
 それがきっと「人生のコツ」なんだ。

「二条くん」

 自分の名前が聞こえた。
 机の上に落ちていた目線を戻すと、二つの頭がするりと下がった。

「娘のワガママに付き合ってくれて。そして、娘の助けになってくれて、本当にありがとう」

 その姿は、企業の謝罪会見なんかよりも、ずっと誠実な感じがした。
 難しい言葉なんていらない。伝えたい言葉を伝えたいだけ乗せた、一番綺麗な感謝の形。

「僕の方こそ、この一ヶ月間楽しかったです。彼女が連れ出してくれたから、僕はまた昔みたいに新しいものに気付けた気がします」

 ありがとうございました。
 きっと感謝の気持ちは、少し贅沢なくらいがちょうどいい。

 それから修治さんたちと少しだけ話して、天月の家を後にした。
 代わり映えのない町を抜けて、駅を目指す。
 駅前のモニュメントの下には何人かの老人がいた。
 蝉時雨が早めた夏と調和をとるように座る彼女らは、まるで色褪せた古写真みたいだった。

『今度は、海に行こうか』

 結局、天月との約束は果たせていない。
 夏休みの最終日になっても、天月は帰ってこなかったから。
 あのストーカーが殺意を盗まれた後、天月の容態は急変した。
 午前十一時二十三分。それが天月詩乃の心臓が停止した時間だった。

「天月!」

 それからのことは良く覚えていない。
 必死に押し続けたナースコールと、リノリウムを叩く音が頭から離れない。
 ザハロフさんが呼んだらしい警官と、ナースコールに呼ばれた看護婦。そして彼女たちに連れられた眼鏡の医者が、小さな個室を駆け抜けて。
 それぞれの仕事をしたのだろう。僕はいつの間にか、若い警官に連れられて外に出ていた。
 僕に何かを聞いていたけれど、よく分からなかったから、ただ「ストーカーが」とだけ呟いた。

「有り難う御座います、うちの者がホントにご迷惑を……」

 連れてこられた警察署には母さんが迎えに来た。
 警官と何かを話していて、それが終わって僕の所に来た母さんからは、ビンタが飛んできた。

「こんな危ないことに首突っ込んで、アンタ何やってんの?」

 淡々と吐く母さんの言葉は痛かった。

「自分の身も自分で守れないようなガキが、突っ走って守れるくらいの命なら、私ら女はお腹痛めてまで子供なんて産ないわよ。命を舐めないで」

 叩かれた右の頬から熱が伝わった。
 水泳の時間に飛び込んだプールみたいに、鼻がツーンとして、目頭が熱くなった。

「自己完結は、決して強いことじゃないのよ」

 痛かった。
 怖かった。
 でも、暖かかった。
 止まっていた時間が溶け出したような気がした。
 気が付いたら、泣いていた。
 泣いて泣いて、しゃくりあげる喉の奥から、必死に「ごめんなさい」を繰り返して。
 僕は十年ぶりに、母さんに抱かれて泣いた。

「たまには、大人を頼ってくれてもいいのよ」

 その日から一人になった僕は、海に行くのも外に出るのも面倒で、ずっと無気力に寄り添い息をする。
 そんな生活の中で、ただ宿題だけをする僕を、家族は「ショックでおかしくなった」と肝を冷やしていた。
 もしかしたら、それが平穏だったのかもしれない。
 けれどそれは、きっと「優しい世界」からはもっとも遠い。
 無気力と思考停止を、ごちゃ混ぜにしたものが優しい世界と言うのなら。その世界は本質から目を逸らす虚構《フィクション》だ。

「優しい世界、か……」

 結局、天月は優しい世界にたどり着けたのだろうか?
 そんなものを確かめる方法なんて、最初からありはしなくて。ただ銅像を見上げた。
 モニュメントに当たって落ちたセミが、動かなくなる。蟻がそれを運んでいく。
 セミの季節が、終わる。

「これが、そうなのかな」

 あっという間にもがれた羽を見て、ポツリと呟く。
 何となく、変化とは途中で画材を変えた絵画みたいに、目を凝らさなければわからないものだと思う。
 だからひょっとして、もうこの世界が「優しい世界」になってたとして。
 それに満足する人なんて、誰もいないんじゃないだろうか。

『私、優しい世界を作りたいんです。きっとあの世界では、誰も傷付かないから』

 それでも天月はきっと、もっとバカみたいな「優しさ」を求め続けるだろう。
 信仰、と言ってもいいそれを、僕は否定する。
 けれど一つだけ、信じ続けていたい事実がある。

 ──震えたスマホの画面に写るそれが、僕の信じたいもの。
 虚構で終わらせたくない、綺麗なものだ。

『今カレくん、見ーつけた』

 このやり取りすらもフィクションだと言うのなら、僕はおとぎ話の泥棒でいい。
 そこまで考えて、僕は「ああ」と納得した。
 優しい世界とは、個人が個人の中に作るたった一つだけの世界。
 つまりは、そう。
 感情、と言うやつなのかもしれない。

 *

 夏を忘れた空は十月に入っていた。
 事件と一緒に始まった学校も、今は嵐の前の海みたいに凪いでいる。
 夏休み明けはずっと騒がしかった教室も、今は文化祭の劇に誰が出るかで揉めていた。
 平穏で良いことだとは思うのだけれど、主役を演じる友崎のせいで、僕まで出演させられそうなのは見過ごせない。

「いいじゃないですか、バッチリ写メ撮ってあげますよ?」

 潮騒と、ジュピターブルーの夏見浜。
 海を連れてきた風の中で、天月がスマホを見せて首を傾げる。
 
「やりたくない理由がもう一つ増えた」

 天月詩乃は、僕の隣にいた。
 ネイビーのカーディガンに白のブラウスと、黒のスキニー。
 初めて泥棒を探した日よりも少し厚着になった服装が、過ぎた時間を教えてくれる。

 天月の心臓は午前十一時二十三分に停止した。
 けれどその後の適切な処置のお陰で、またすぐに動き出した。復帰までの時間が短く、後遺症の心配もないらしい。

「体はもういいの?」
「いいから退院してるんですよ」
「そうじゃなくて、体力的にだよ」

 早くて九月だった退院日が十月に入るまで延期になったせいか、退院してからの彼女は溜め込んだ鬱憤をぶちまけるようになった。
 具体的には、「退院の挨拶回り」と称した外出を繰り返している。
 小春さんは気が気じゃない。

「大丈夫ですよ。だって二条くんがいますから」
「なるほど、僕はいつまでも気が抜けないらしい」

 台風何号だかが接近する前の、凪いだ海。
 固い堤防に腰を下ろして、僕らは憎まれ口で微笑み合う。

「さあ、忘れん坊の泥棒さん」

 隣から天月の姿が消える。
 後ろから声がする。
 振り向くと、堤防を降りた天月が僕を覗き込んでいた。

「明日はどこに、『優しい世界』を探しにいきましょう?」

 海。
 肺の中一杯に広がる、辛くて苦い、海の味。
 海を昇る水泡みたいに、いつかは弾ける儚さ。
 空を目指せばいつか必ず弾けるというのに、それでも彼女は空を目指す。
 海を出た先にある優しい世界は、優しくない彼女を弾いてしまうと言うのに。
 彼女は綺麗なままで笑っている。
 でも、それでいいと思った。
 そのとなりで、僕も優しくなれたなら。
 それはきっと、僕たちの世界を優しくしてくれるから──


 僕たちの物語は、一度ここでページを閉じる。
 次のページには後書きが続いて、そして聞いたこともないレーベルの、聞いたこともない他の小説達の名前を羅列して、本を閉じる。
 けれど本を閉じたあとも、物語はまだ続いていく。
 或いは読み手の知らない場所で、また或いは僕たちの中で。物語は人生に名前を変えて、続いていく。
 終わることのなかった、十年前のあの夏のように──。