次の日からほぼ毎日、かの子がのぞみのアパートへ来るようになった。午後三時を過ぎた頃に、コンコンと鳴るドアを開くとかの子が立っている、そんな具合だった。こづえの方はというと先に行ってしまうのか姿を見ることはなかった。
 紅も大抵は同じくらいの時間に来て、出勤前のひとときをのぞみの部屋でかの子と遊びながら過ごしてゆく。のぞみが作る遅い昼ごはんを三人で囲むことさえあった。
 普通に考えて、毎日上司が部屋に来るなんておかしいとのぞみは思うけれど、ちっとも嫌だとは思えないから不思議だった。いやむしろその逆で、二人が来るのを楽しみにしている自分が心の中に確実にいて、そのことにのぞみ自身ひどく戸惑っていた。
 かの子はともかく紅の方の来訪を楽しみにする理由はいったいなんだろう。
 いくら考えてもわからないけれど、自分の部屋でかの子を膝に抱いている彼を見るだけで妙な安心感を覚えるのだ。
 彼は神格まで得ているあやかしだから、妙な術で自分は懐柔されているのかもしれないとのぞみは無理やり自分を納得させる。でももしそうだとしてもそれでもいいとすら思えるのだからやっかいだった。
 そんなふうにして、概ねのぞみの保育士生活は順調にスタートした。
 ただ一つの心配ごとを除いては。
 ただ一つの心配ごと…それはかの子の母親、こづえのことだった。