「あの…」
「わかってるよ。セクハラはなしだろ?でもこれは親切だ。もう丑三つ時を過ぎたよ。私の結界が"あちらさん"に効くって誰か言った?」
「…効かないんですか?」
「さぁ、どうだろう?」
 そう言って紅は、カランコロンと下駄を鳴らして歩きだす。のぞみもそれ以上は何も言わずに従った。
 時間にしたら十数秒の道のりをゆっくりと歩いてアパートへ着くと紅が振り向いて微笑んだ。
「今日は一日よくがんばってくれたね。また明日」
 手が離れるのを少し寂しいと思いながら、のぞみは月明かりに浮かぶ紅の赤い瞳を見つめた。
「はい、おやすみなさい」
 のぞみの保育士としての第一日目が終わった。