彼女がこの件に関してどこかイライラとしていたのは、かの子を心配する気持ちと自分自身の限界との板挟みになっていたからかもしれない。
 サケ子が口は悪いが非情なあやかしではないというのは今日一日でよく分かった。
「でも、こづえさんはなぜあれほど働くのでしょう?」
 現代があやかしにとって厳しい時代だといってもそれは他のあやかしだって同じだろう。こづえだけじゃないはずだ。
「あぁ、それは…彼女は夫婦者ではないからね」
 紅が言った。
「夫婦者ではない…」
 のぞみは呟く。そういえば大抵のあやかしは、夫婦で預けに来て、夫婦で迎えに来ていた。
「親が一人なら…まぁ、その分"ぞぞぞ"をたくさん稼がなきゃいけないからね。必然的に」
 なるほど彼女はシングルマザーというわけか。まだ若いのに子どもを一人で育てるのは大変だろうとのぞみは彼女に少しばかり同情的な気持ちになる。
 だが次の紅の言葉がそれを否定する。
「ま、でもこづえはもうすぐ百歳になるベテランママだから…」
「え!?ひゃ、ひゃく!?」