それからその日は、子どもたちと掃除をして過ごした。子どもたちは、ホウキでチャンバラをしたり、バケツの水をひっくり返したりと大騒ぎで綺麗になったかどうかは微妙だが、とにかくのぞみは一度もぞぞぞとはせずに楽しく過ごしながら、子どもたちの名前と特徴を覚えていった。
 そうして、午前一時を回った頃からちらほらと子どもたちのお迎えに親が来はじめた。
「のぞせんせーバイバイ! またあしたね」
 そう言って元気に帰ってゆく子どもたちをかの子と手を繋いで玄関で見送りながら、のぞみは不思議な気持ちになっていた。
 今朝、ここで働くのだと決めたときは契約をしてしまったから仕方なく働くのだという気持ちが強かった。だが一日が終わってみれば、胸にあるのは奇妙な充実感だった。あやかしの保育園なんて怖いことばかりだろうと覚悟していたのに、のぞみが本当に嫌だと思うことは何一つ起こらなかった。
「紅さま、今日もありがとうございました」
 紅は保護者たちに頭を下げられて、柔和に微笑んでいる。のぞみはその綺麗な横顔をこっそりと盗み見る。
 すけべで、ひょうひょうとしていて、あやかしで。本当なら出会うことがないはずの遠い人。それなのに妙に信頼してしまっている自分がいる。
(不思議な人…)
 のぞみは心の中で呟いた。