サケ子はカラカラと笑いながら再び布で口元を覆った。
「本当に怖がりだねぇ、あんた」
 口以外は本当に綺麗な女の人だ。そう思うとのぞみはなんだか、怖がって声をあげてしまったことを申し訳なく思った。
「あ、あの…すみませんでした。怖がったりして」
 恐る恐る謝ると、サケ子は一瞬何を言われたのかわからないというように目を見開いて次の瞬間、ははははと声をあげて笑い出した。
「なんで謝るのさ! 変な子だね!」
「え? で、でも、女の人の顔が怖いだなんて…」
 失礼だろう。のぞみは彼女の反応にやや面食らいながら答える。それをサケ子は一蹴した。
「私はあやかしだよ? 『お姉さん綺麗ですね』『ありがとう、これでもかい?』『ぎゃー!!』となって一人前なのさ。ここであんたが驚かなかったとしたら、それこそわたしゃ、消えなきゃいけない」
「そ、そうなんですね…。わかりました」
 そんな二人のやりとりを、のぞみの後ろで見ていた紅は、くすくすと笑った。
 そして、「のぞみは、本当に純粋に怖がってくれるから、子どもたちの練習にちょうどいいかもしれないね」などという聞き捨てならないことを言った。