のぞみはパソコンを立ち上げながら難しい顔で役所関係の書類を探す紅の、きれいな横顔をじっと見つめる。
 天狗は古くは大陸から伝わったといわれるあやかしで、地域によっては山神さまと呼ばれ、人間の信仰の対象にもなってきた。
 その彼が、なぜ…。
「あぁ、これだ。これこれ…ん?のぞみ?どうかした?」
 事務所の入口で立ち尽くしているのぞみに紅が不思議そうに問いかける。
「え?あ、いえ…。何でもありません」
 のぞみが答えると、紅はいくつか追加で指示をした。そして、「夕食までには戻るよ」と言って部屋を出て行った。
 その背中は先ほどまでとは違い、近寄りがたい空気に満ちているような気がして、のぞみの胸がキュッとなった。