そのあとすぐに登園時間になった。
 ぞくぞくと登園するあやかしの親子に、のぞみは紅に"ぞぞぞ"を食べてもらいながら、なんとか自己紹介をすることができた。
 人間が保育士をすることに不満を抱く者がいるかもしれないと密かに心配していたのぞみだが、とくにそんな様子はなかった。
 ただひとつだけ不可解だったのは、のぞみがあのアパートに住むことになったと聞いたあやかしたちの意味ありげな視線だった。
「へぇ、ということは…ほぉ…、初めてですな。人間がだなんて」
 垢舐めというそのあやかしの父親は、長い舌をべろりと出して上から下まで舐めるようにのぞみを見た。だが隣にいる紅をちらりと見てそれ以上は何も言わなかった。
 すけべでどこまで本気かわからない油断ならない紅だけれど、あやかしを統べる山神だというのは本当らしい。あやかしたちは皆、紅に敬意を払っているようだった。