「紅さまは、本来"ぞぞぞ"を食べなくても在ることができるあやかしさ」
「…そうなんですか?」
 のぞみは、のぞみの"ぞぞぞ"をちぎって、美味しそうに食べ続ける紅を見つめた。
「神格得ているからね」
 紅が得意そうに眉を上げて言う。
「私にとってはおやつみたいなものかな、食べると元気になるよ」
 のぞみは、うーんと考えこむ。
「だったら…」
「だったら?」
「私の"ぞぞぞ"は紅さまではなくべつの誰かに食べてもらう方がいいんじゃないですか。例えば、かの子ちゃんのお母さんとか、"ぞぞぞ"を持って帰ってこられなかった親御さんに…」
 そうすれば、かの子が開園前に置き去りにされることもなくなるかもしれない。だがそれを紅は難しい顔で否定する。
「それはダメなんだ、のぞみ。それはできない」
 紅はそう言って残っていた"ぞぞぞ"全てを口に放り込む。
 のぞみは自分で提案しておきながら、それもそうかと思った。預かっている子どもたちを平等に扱わなくてはいけないのは保育園の基本だろう。一部の保護者だけ特別扱いはできない。さらにいうとここはあやかしの保育園。あやかし界独特のルールがあるはずだ。
 例えば"ぞぞぞ"の譲渡は禁止とか…。
 そんなことを考えながらも、「…どうしてですか?」と尋ねたのぞみを、にやりと笑って、突然紅が引き寄せる。