疑問をそのまま口に出すと、「あるよ」と答えたのは、サケ子だった。
「人間もいろいろだからね。純粋にあやかしが怖いと思っての"ぞぞぞ"と、例えば悪事がバレそうになった時の"ぞぞぞ"は味も色も違うのさ。中にはそういう"ぞぞぞ"が好きだというあやかしもいるけど。ま、相性だね」
「のぞみほど、純粋に私たちを怖がってくれる子はそうはいない」
 紅が嬉しそうに言った。
「そもそも今の人間たちは、あやかし以外にも刺激的なものに囲まれすぎているからね。ちょっとやそっとじゃ"ぞぞぞ"とこない。そういう意味では、今はあやかしにとって空前絶後の大不況時代だといえるかもしれない。なにしろ"ぞぞぞ"を食べることができなくなったあやかしはいずれ消えてしまうからね。座敷童子が血眼になって働くのもわかるだろう?」
 あやかしも楽じゃないんだと、のぞみは紅の手元のふわふわを見つめながら思った。
「紅さまは…」
「ん?」
「じゃあ、紅さまも"ぞぞぞ"を取りに行くのですか?」
 それは、サケ子が否定した。