「…す、すみません、間違えました。…園長先生」
 変なことを言わないでくださいとも言えずにのぞみは頬を染めてうつむいた。上司でありながらも、こんな風にセクハラまがいの言動を繰り返す彼との距離感がいまいちわからないで戸惑うばかりだ。せめて呼び方だけでもわかりやすく距離を取らなくては。
 だが紅はそれにあっさりと首を振った。
「ダメだよ、のぞみ。園長はもうなしだ。"紅さま"と呼んでくれ。ふふふ、これは上司命令だからね。ほら、もう一度言って」
「そ、そんな…!」
 のぞみは声をあげかけるけれど、パンパン手を叩く音で遮られる。サケ子が呆れたように、紅を見てから口を開いた。
「はいはいそこまでだよ、お二人さん。いいかい、のぞみ。人間の世界で何がふつうかなんてこちらは知ったこっちゃない。でもここにはここのやり方があるからね。出来る限り合わせとくれ」
 きっぱりとしたサケ子の言葉に、のぞみは少し考えからこくんと頷く。彼女の方がよっぽど園長先生みたいだと思いながら。