まだ開いていない保育園に置き去りにされたというならば、寂しくてかの子がのぞみのアパートに来てしまったのも頷ける。
「座敷童子は仕事が始まる時間が皆より早いからね」
 紅が言ってかの子を抱き上げた。
「だからって紅さま…!」
 サケ子は憤懣やるかたないといった様子で目を吊り上げる。だが同じことが何度もあったというならば彼女の怒りはもっともかもしれない。
「座敷童子は子どもに交じって遊ぶあやかしだから、暗くなる前に出なければいけないんだよ」
 紅がサケ子にというよりはあやかし初心者ののぞみに言った。のぞみは紅の目を見てゆっくりと頷いた。
 お昼、仕事が始まる前に街へ出かけて駅前の本屋へ行ってきた。そこでのぞみは人生で初めて"妖怪図鑑"なるものを買った。おどろおどろしいその表紙の本は、今までののぞみなら前を通るのもごめんだったけれど、これも子どもたちを知るためと目をつぶってえいやと手に取ったのだ。そして部屋で真っ先に読んだのが、"天狗"と、"座敷童子"のページだった。