「どうしてこんなところにアパートが…」
 呟いてもうひと口水を飲む。そしてよいしょと立ち上がったとき、くいっとTシャツの裾を引かれたような気がした。
 振り返ると裾の先に小さな女の子が立っていた。
「え? あ、あれ…?」
 女の子は右手でのぞみのTシャツを掴み、もう一方の手で指しゃぶりをしながら、大きな瞳でのぞみをじっと見つめている。
(この子一体どこから来たんだろう…?)
 階段を上り始めてから、今の今まで子どもどころか人っ子一人いなかった。声すら聞かなかったというのに。
(神社の方から来たのかな?)
 鳥居の方に目を凝らしてもやはり人影はなかった。
 のぞみはもう一度階段に座る。そして女の子と視線を合わせた。
「どうしたの? お母さんは?」
 尋ねながら三歳くらいだろうかとあたりをつける。迷子なら交番に連れて行かなくてはと思った。このくらいの子なら、名前くらいは言えるかもしれない。
「お母さん…」