「私本当は怖がりなんです。今までの人生でそういうものはとことん避けてきましたから。たぶんそのまま働くのは無理そうです。その…ぞ、ぞぞぞを食べてもらわないと」
 古今東西、自分から"私のぞぞぞを食べて下さい"なんて言う人間はいないだろうとのぞみは思う。でもそうしないと絶対に無理だろうということもよくわかった。今だって、さっき紅が食べてくれたからこうやって顔を見て話せるのだ。
 紅が目を細めて、頷いた。
「願ってもない条件だね。のぞみのぞぞぞは美味しいからね。働いてくれるだけでなく食べてもいけるなんて、こんなにいい従業員はいないだろう」
 人を保存食みたいに言わないでほしいと睨みながらのぞみは、「それから!」と言葉を続ける。
「ちゃんと契約は守りますから、昨日みたいなのはやめて下さい。私、この街でやりたいことがあるんです。たましいを取られるわけにはいかないんです」
 今度は真面目な表情で紅は頷く。
「約束するよ。昨日は悪ふざけが過ぎたとちょっと反省したくらいなんだ。もうあんなことはしないし、のぞみのたましいも取らない。安心して」