視線を上げると、紅が布団に肘をついて寝そべったまま眉を上げて微笑んでいる。
 のぞみはぶんぶんと首を振って、そのことについては考えないことにした。
 それにしても、とのぞみは昨日のことを思い出す。確か彼はのぞみのたましいをもらうと言ったはずなのに、どうしてこんなことになっているのだろう。よく見てみると、二人がいるのは昨日借りることになったのぞみの部屋だ。すみっこには、駅前のホテルにあるはずののぞみの荷物が置いてあった。
 得意そうに紅が言う。
「昨日のうちに運んでおいたよ。引越しの手間が省けるだろう?」
 では彼はやはりのぞみがここで働くことを諦めてはいないのだ。たましいを取らないでやったから、いうことを聞けということか。
「…ウソつき」
 ぽつりと言うと紅がわずかに眉を上げた。
「あやかしはたましいを取らないって言ったじゃないですか」