「そりゃ、座敷童子はあやかしの中でも格が高いですから、見えない輩もいるのは確かです。でも探せばいるでしょう?この間面接に来た猫又だって」
「…猫又は、子供たちが嫌がったじゃないか」
 紅は口をとがらせた。
「それでも、ここで働きたいというあやかしはわんさかいるのです。あなたさまが本気になれば…」
「ああいう輩はごめんだよ」
 紅がいやいやをするように首を振ると、サケ子は再びため息をついた。
「まぁあいつらは、働きたいというよりも紅さまの嫁の座を狙っているという方が正しいですからね。でも稲荷の親父の紹介なら、この子も似たようなものでしょう? それにしては人間なのが解せないですけど」
 紅は腕の中ののぞみを見つめた。
「いや彼女にはその自覚はないようだ。ただ純粋に安いアパートに惹かれて来たのだろう」
「ならどうして」
「どうしてかねぇ」
 首を傾げて紅はのぞみのひたいにかかる黒いまっすぐな前髪に触れてみる。さらさらとした感触が指先に心地いい。
「紅さま、のぞ先生をお嫁にもらうの?」
 いつのまにか、かの子が背に乗っかって紅に尋ねた。
「さぁ、それはどうかな。でもしばらくは楽しくなりそうだね。かの子?」
「うん!」
 かの子が嬉しそうに答えて、同時にサケ子が三度めのため息をついた。