「そう警戒しなくても大丈夫! この街のことでわしの耳に入らんことはないからな。あのアパートで何かあったという話は聞かんよ。だが本当に古くてね、家賃もそう取れんから、わしは間に入らんのだよ。大家は地元でも信頼の厚い神社の宮司さんだから、女の子の一人暮らしでも安心じゃないかな」
 そして細い目をもっと細くしてのぞみの後ろを指さした。
「ほら、ここからも見える、あの山の上の神社だよ。電話しておくから今から行っておいで」
不動産屋を後にしたのぞみは、その足ですぐに神社を目指した。期待半分不安半分。今は少しだけ不安の方が多いかもしれない。
 のぞみはため息をついて、上ってきたばかりの階段を眺めた。いくら格安とはいえこの長い長い階段を毎日登り下りする自信はなかった。
 振り返って見上げると頂上まではあと少し、登り切ったところに古びた大きな鳥居があって、『山神神社』と書いてあった。
 その周りは鬱蒼とした森に覆われている。のぞみがいる場所からは本殿は見えなかった。