のぞみは頷きかけて、いや待てよと首を傾げる。いつのまにかなし崩し的にここで働くことになっている。
「あの…」
「なんだい? のぞみ」
「わ、私、やっぱりここでは働けません」
 ぞぞぞを食べてもらったせいか、はたまた子どもたちの無邪気な笑顔を見たせいか、さっきまでの"こんな恐ろしい職場はごめんだ"というような気持ちは少し薄れた。それでもやはり自分はここで働くことはできないと思う。
 のぞみの言葉に紅は笑うのをやめて、眉を上げた。
「どうしてそんなことを言うの?」
「私は、普通の人間ですから。…あやかしの子どもたちの面倒をみるなんてできないような気がします」
 きっぱりと言ってのぞみは紅をまっすぐ見つめる。いつのまにか、かの子がやってきて、のぞみの背中におぶさるようにくっついている。
「あ、あやかしの子たちが、恐いからとか、そ、そう言うわけではありません。いえ、確かにさっきはそう言いましたけど、今は…その…。そうではなくて、私は人間の子供たちの保育士ですが、あやかしの子たちのことは知りませんから、安全にお預かりすることはできないからです」