笑いに包まれる場に呑まれて、のぞみも思わず笑顔になる。
「い、嫌なことをされた時は嫌だって言わなくてはいけないのよ。でも本当は叩いたりしたらダメなんだけど、ふふふ」
「のぞ先生、ダメなんだぁ」
「ふふふ、そうね…」
 そう言ってのぞみは彼の頭をそうっと撫でる。ぽやぽやと少しだけ生えている髪が柔らかくて心地よかった。
 一方で、紅の方は全く反省する様子がない。
「私の手は、女性のそういうものに吸い寄せられるようにできてるんだ。許しておくれ」
 悪びれることもなく言う彼には反発を覚えて、のぞみは再び頬を膨らませた。
「こういうのは人間の世界ではセクハラっていうんですよ」
 目を釣り上げて言うと、紅が目を細めて嬉しそうに笑う。
「なるほどなるほど、覚えておくよ。のぞみはここで働くのだから気をつけなくてはいけないね」