「のぞみ、どうか落ち着いて聞いて欲しい。私たちは、亡者とは違うんだ。人を取り殺したり、あの世に連れて行ったりはしないよ。ただ、ほんの少し脅かして、おまんまをもらう、それだけなんだよ」
「もう…じゃ…?」
「そう亡者。君の言うお化け、あるいは幽霊、私たちとは似て非なるものさ。何せあちらは元は人間様だったのだから」
 のぞみは少し考えて、ゆっくりと頷いた。
 死んだ人の霊が成仏できずにこの世に残ってしまうのと、彼らは違うということか。
「で、でも驚かすなんて…」
 のぞみは小さい頃から恐がりだから、それだけでも十分困るのだ。
「あやかしたちは、人間を傷つけたり殺したりは絶対にしない。それが、あやかしの掟だからね。ぞぞぞを食べられても、人は死なない。さっき私はのぞみのぞぞぞを食べたけれど、君は痛くもかゆくもないだろう?」
 言われてのぞみは、自分の両手をじっと見つめた。確かにどこも痛くはない。
 その手を紅が優しく取って、ゆっくりとのぞみの胸元へと促した。
「ほら、心の肝はとくんとくんと脈打って、温かいじゃないか。のぞみはちゃあんと生きている」