兄妹の間にあったわだかまりはもはやない。のぞみと縁を切ったことを颯太は泣いて謝ってくれたし、それがいかに断腸の思いでしたことなのかはすでに志津から聞いていたことだから、さほど時間は掛からなかった。
 のぞみにとってはそれよりも、家族が増えたことのほうが、嬉しかった。
 親のいないのぞみの嫁入りを、こうして兄夫婦が送り出してくれるのだから。
「なっさけないなぁ、父ちゃんは!」
 そう言って、颯太の後ろから太一がひょこりと顔を出した。
「まぁ、太一!」
 志津が声をあげて、眉を寄せた。
「家で紅さまと待っていなさいと言ったのに。あなたがここをちょろちょろしたら、白無垢が汚れてしまいます」
 家といっても、以前彼らが三人で住んでいた隣町の家ではない。のぞみと同じアパート内の二階の一室だった。
 太一はヌエに拐われたあと、しばらく夜泣きが続いた。それほど幼い彼にとっては恐ろしい体験だったのだ。
 ヌエの脅威は去ったのだと、いくら言い聞かせても理屈ではないのだから仕方がない。
 見かねたのぞみが紅に相談をして結界の中のアパートへ引っ越してはどうかと提案したのだ。
 結界の中は安全だということは、太一も本能でわかるようで、まもなく夜泣きは治まった。